ついに2023年8月、18〜30歳を対象とする日本・フィンランド間のワーキングホリデー制度(通称「ワーホリ」)が開始されました。
おそらくフィンランドでのワーホリを検討している、または既にフィンランドに渡航した多くの人が知りたいのがフィンランドでの仕事探しについての情報ではないかなと思います。
そこで今回は飲食店関連のお仕事に特化して、働く前に必ず知っておきたいことをまとめてみました。
なぜ飲食店関連のお仕事に特化したかというと、在フィンランド日本大使館が作成した「日本からワーキングホリデー査証で渡航される皆様へ」という資料にも書いてあるように、おそらくワーホリの方が一年間という短期の仕事探しをするときに最も現実的で需要が高いのがカフェやレストランでの仕事だと思うからです。
大切なことを詰め込んだらかなり長い記事になってしまいましたが、ワーホリの方だけでなく、フィンランドに移住した方や留学中の学生の方などの参考にもなればと思います。
ちなみにわたし自身ワーホリの経験はなく、あくまでフィンランドの飲食店での経験をもとにご紹介しています。
フィンランドで働くための基本知識
そもそもフィンランドにはどんな雇用形態があるの?
まずどんな雇用形態の仕事を見つけたいか、考える必要がありますよね。
フィンランドでは、大きく分けてこのような6つの雇用形態があります。
- Kokoaikainen työsuhde(フルタイム)
日本でいう「正社員」のイメージ。
通常は週に5日、一日中(たとえば一日7.5 時間、週37.5 時間)働くことを意味します。 - Osa-aikainen työsuhde(パートタイム)
日本でいう「バイト」というよりも、「勤務時間の短い正社員」のイメージ。
フルタイムより勤務時間は短く、雇用契約書に記載されている時間働くことを意味します。 - Määräaikainen työsuhde(有期雇用契約)
季節性のある仕事(夏限定カフェやスキー場など)や、一度限りの仕事(イベントスタッフなど)など、正当な理由により期間を限定して雇用されるもの。 - Vuokratyö(派遣)
人材派遣会社に登録し、ウェブサイトからオープンポジションを自分で見つけて応募し、働くもの。単発(一日単位の日雇い)が多い。 - Oppisopimus(見習い契約)
学生などが現場で職業経験を積むためのもの。 - Yrittäjyys(起業家)
自ら会社を起こし、フリーランスとして働くもの。
ワーホリの方は、「フルタイム」「パートタイム」「有期雇用契約」「派遣」のいずれかの仕事を探すことになると思います。
パートタイムも先述のとおり「勤務時間の短い正社員」という立ち位置なので、日本のバイトよりも採用のハードルは高く、未経験者の雇用にオープンではないことも少なくない印象です。
フィンランドの飲食店で働くためには資格が必要!
フィンランドの飲食店で働くときに、必ず求められる資格があります。
ひとつめが、Hygieniapassi(食品衛生管理資格)。英語ではHygiene Passportと呼びます。
これはフィンランド食品法に基づき、従業員が職場で包装されていない生鮮食品を扱う場合に必要となるので、カフェ、レストラン、キオスク、ファストフードレストラン、食料品店で働くときには必ず資格を取らなくてはいけません。
ただし、Hygieniapassiをまだ持っていない状態で従業員として採用されることも可能で、遅くとも働き始めてから3ヶ月以内に取得すればOKと定められています。
しかし募集要項に必須と書いてあるところもあるので、なるべく早く取得してしまうといいでしょう。
勉強方法や試験についての詳しいことは過去のブログ記事にまとめてありますので、参考にしてください。
もうひとつが、Anniskelupassi(アルコール取扱資格)。英語ではAlcohol Passportと呼びます。
こちらはお店でアルコールを取り扱う場合に必要となる資格で、上記の食品衛生管理資格と同じ立ち居位置のものです。
どちらも英語での受験も可能で、きちんと勉強すればそこまで難易度は高くない試験ですので、なるべく早めに取得しておくとプラスに働くと思います。
フィンランドの労働者を守る労働組合と労働協約とは
フィンランドで働くというと、残業が少なく、コーヒー休憩が保証され、4週間という長い夏休みをとる、なんていうイメージがある方も多いのではないでしょうか。
なぜこのような働き方ができるかというと、労働組合が労働者の立場を保護し公正な待遇を確保するための労働協約(フィンランド語でtyöehtosopimus、英語でCollective Agreement)を規定してわたしたちを守ってくれているからなのです。
フィンランドには産業ごとに労働組合があり、飲食業(ホテル、清掃、小売業なども)はPAM(パム)という団体が該当します。
PAMによる労働協約は、たとえば最低賃金・労働時間・有給休暇・休日の補償などについての最低ラインを設定してくれています。
フィンランドの法律にはそれらすべてに関する規則があるわけではないので、労働組合が労働協約を交渉し、その協約が確実に遵守されるようにしてくれているのです。
しかしそれらはあくまで雇用者が守らなくてはいけない最低ラインであって、労働者は雇用契約でよりいい条件を交渉することができます。
最新バージョンの労働協約(Collective Agreement)はPAMのホームページから読むことができます。
大使館の資料にも、「ワーキングホリデー制度を利用して渡航された方や外国人労働者に対して、雇用主から不当に低賃金で働かされるという情報があります。雇用契約を結ぶ前に、現地の労働法規等を含め前もって十分に情報収集されることをお勧めします」と書かれています。
フィンランドの労働規約を知らないのをいいことに搾取されたりトラブルに巻き込まれることがないよう、自分で自分の身を守るためにもしっかりと読み、不当な契約を結ばされないようにしましょう。
英語版はなくすべてフィンランド語で書かれていますが、Google翻訳やブラウザの翻訳機能などを使って読むことができます。(英語版ができました。(2024年9月9日追記))
もしこの労働協約で定められた最低ラインが満たされていない場合はPAMが助けてくれますが、そのためには労働組合のメンバーである必要があります(詳しくは後述)。
採用されるまでの流れは?
一般的な採用までの流れは下記のとおりです。
- 応募
- 面接
- (トレーニングシフト)
- 給料・勤務時間の交渉
- 契約書締結・必要書類提出
- 採用
ひとつずつ説明していきますね。
1. 応募(履歴書サンプルはこちら)
インターネットやSNS、友人の紹介などを通じて求人を見つけたら、CV(履歴書)を添えて応募します。
CVのサンプルも作成しましたので、こちらからダウンロードして活用してください(Canvaにログインすると編集ができます)!
ポイントとしては、このようなところだと思います。
- A4一枚にまとめる
- 志望理由・スキル・保有資格・言語レベルなどを簡潔に書く
- 経歴は日本と逆の降順(新しい順)で
- 応募するポジションと関連性の低い職歴はOther Work Experienceにまとめる
- ワーキングホリデービザの有効期限を明記する
一般的にCVは、求人広告が書かれている言語と同じ言語で書くべきと言われていますが、フィンランド語で書かれた求人に英語のCVで応募しても大丈夫でしょう。
ただし求人広告がフィンランド語で書かれている場合は、接客時や同僚とのコミュニケーションである程度のフィンランド語能力が求められることが多いです。
2. 面接
書類審査を通過できたら、次はいよいよ面接。
一対一の面接が一般的ですが、集団面接でグループディスカッションやプレゼンテーションを求められることもありました。
経験や能力についてのアピールはもちろんのこと、わからないことや不安なことなどをこの段階で正直に相談するのも大切です。
残念ながら面接に進めなかった場合、お祈りメールが来る場合も、来ない場合もあります。
3. (トライアル・シフト)
トライアル・シフトは、ある場合とない場合があります。
これは面接の一環として、実際に働いているところを見て判断するもの。
わたしが某ベーカリーでトライアル・シフトをしたときは、忙しすぎない時間帯に3時間ほどお店に立ち、マネージャーが実際の働きっぷりや接客態度を見て採用の最終判断をしていました。
4. 給与・勤務時間の交渉
まずお給料について。
日本では予め提示されていることが多いかと思いますが、フィンランドでは面接で「お給料(時給)はいくら希望ですか?」と聞かれます。
自分の経験やスキル、任される仕事の内容などに応じて交渉するのです。
このブログ記事を書いている時点でのヘルシンキのカフェで働く場合の時給相場は12〜14ユーロですが、こういったウェブサイトで最新の相場を参照してみるのもよさそうですね。
トレーニングシフトがなく、面接にこの給与交渉が含まれる場合もあります。
次に勤務時間について。
多くの場合求人広告にどのぐらいの頻度で働いてほしいかが明記されれていますが、一般的に「3週間で60時間」」「3週間で90時間」などといった契約を結びます。
これは、「3週間に最低でも60時間/90時間以上のシフトを必ずあなたに与えることを約束します」ということです。
ご自身の他の仕事や予定との都合と併せて考えて、交渉しましょう。
5. 契約書締結・必要書類提出
さまざまな条件について双方合意ができたら、いよいよ契約書にサインです。
契約書には、先述の労働規約に則って必ず下記の事項すべてが明記されている必要がありますので、ひとつひとつしっかりと確認し、疑問点があった場合はサインをする前に雇用主に確認しましょう。
また、必ず契約書を締結した状態で働き出すようにしましょう。
そして必要書類とは、tax cardとフィンランドの銀行口座情報(食品管理衛生資格やアルコール取扱資格の証明書コピーを求められる場合も)です。
ワーホリの方がどのようにしてtax cardやフィンランドの銀行口座を開設するかについてはわからないので、各自調べてみてください。
6. 採用
すべてを乗り越えたら、正式に採用です。
おめでとうございます!
契約するときの注意点!
契約書にサインをする前に、しっかりと内容を確認しましょう。
ここではいくつかの大切なポイントをご紹介します。
タスク(任される仕事内容)について
タスク部分には、任される可能性のある任務が書かれます。
必要以上に多くの責任を負うことになりそうではないか、または逆にざっくり書かれすぎていないかなど、きちんと確認するようにしたいですね。
雇用関係の期間について
雇用形態についての部分で既に書きましたが、有期雇用契約(Määräaikainen työsuhde)の場合はその根拠(期間が限られる明確な理由)についての記載をよく読みましょう。
たとえばフルタイムやパートタイムで雇われたのに有期の場合は、納得できる理由の提示(ワーキングホリデービザの期限等)を求めましょう。
なぜなら、正当な理由がない場合の有期雇用契約は認められていないからです(その場合は契約に定められた有期期間にもかかわらず、その契約は無期限とみなされます)。
ただし、従業員側の要望によって有期労働契約とした場合はOKです。
労働時間について
契約書で労働時間を定めない「nollatuntisopimukset(ゼロ時間契約)」というものが存在します。英語ではzero-hours contractsと呼びます。
「給料・勤務時間の交渉」でも書きましたが、フィンランドでは通常「3週間で60時間」などと勤務時間をあらかじめ契約書で約束します。
そうすることで毎月の仕事量・お給料が約束されるからで、従業員の生活を守るためですね。
しかし、「0時間契約」はこの約束された勤務時間を0時間とするため、毎月の仕事量、ひいてはお給料が保証されません(「0〜30時間」などという記載も0時間勤務の可能性を含むため、0時間契約です)。
よって雇用主から「今月あなたに与えられるシフトはありません」と言われてしまっても、契約上問題ないということになってしまいます。
このようなトラブルも多いため、労働組合PAMもこの0時間契約を許可しておらず、必ず契約書には最低労働時間を記載するようにとしています。
ただし従業員側の希望でゼロ時間契約を結ぶことは、問題ありません。
採用が決まったら、労働組合に入りましょう!
フィンランドでは産業ごとに労働組合があり、飲食業(ホテル、清掃、小売業なども)はPAMという団体が該当します。
PAMの会費は控除前給与の1.5%で、所属すると以下のようなサービスを受けることができます。
- 労働条件の交渉
- 専門家・弁護士のサポート
- 失業中の失業手当
たとえば会社が労働協約の内容を守っていない(最低賃金以下で働かされたり、不当に有期雇用契約を結ばされてしまった場合など)ときに、PAMが代わりに交渉してあなたを守ってくれます。
また、必要に応じて労働組合の弁護士の助けを受けることもできます。
そしていちばん大切なのが失業したり解雇された場合に失業手当を受けられる(※ただし条件あり。詳細は追記参照)ことです。
逆に言えば労働組合に加入していない場合はこういったサービスを受けることができず、誰もあなたを守ってくれないので、お仕事が決まったらすぐに加入することをおすすめします。
詳しくはPAMホームページを読んで参考にしてみてください。
ワーホリの方へ(2024年4月13日追記)
< 失業手当を受ける条件について >
2024年4月現在、失業手当を受けられる要件のひとつは「直近28ヶ月の内、6ヶ月(26週間)以上継続して労働組合に所属し有給雇用されていること」です(詳細はこちらを参照)。
よって、ワーホリの方については、タイミングや条件によっては失業手当の受け取りが難しいと言えます。
また、現政権の方針により2024年9月2日から失業保障の給付要件が6ヶ月→12ヶ月に延長され、ワーホリを含む一年以下の短期滞在の方の受給は実質不可能になりますので、ご注意ください(詳細はこちらを参照)。
本件ご指摘・ご教示くださったTさま、ありがとうございました。
労働協約について知っておきたいこと
先述の労働協約(Collective Agreement)の中で、特に知っておきたい大切な項目をいくつかご紹介します。
最新バージョンの労働協約全体は、PAMのホームページから読むことができます。
最低賃金について
飲食業と一括りに言っても、シェフ・ウェイター・レジ係など、与えられた肩書きやタスクによって最低賃金は異なります。
労働契約のこのページを参照して、自分に該当する箇所を確認し、必ず最低賃金以上のお給料の仕事に就くようにしましょう。
2024年4月現在のウェイターの最低賃金は、11.38ユーロです(年に数回見直されるので、随時確認する必要があります)。
とはいえこのブログ記事を書いている時点でのヘルシンキのカフェで働く場合の時給相場は12〜14ユーロで、最低賃金で募集しているポジションはあまりありません。
勤務シフトについて
シフトの長さについても、従業員を守るために細かく定められています。
勤務シフトは、少なくとも4時間でなければなりません(従業員の要請または正当な理由がある場合を除く)。
また、勤務時間は最長10時間とされています(従業員の同意がある場合を除く)。
ただし、一日の労働時間は16時間を超えることはできません。
シフト表は、職場ごとに特段の合意がない限り、3週間の期間が開始する少なくとも1週間前までに従業員が見える場所に掲示されるように、雇用主は事前に作成しなくてはなりません。
休憩時間について
休憩時間についても、しっかりと権利が守られています。
勤務シフトの長さが4時間を超える場合、従業員には少なくとも1回のコーヒー休憩(10〜15分)が与えられます。
休憩時間は労働時間としてカウントされ、休憩時間中は雇用主の許可なしに職場を離れることはできません。
一日の労働時間が6時間を超える場合は、コーヒー休憩に加えて、従業員には少なくとも30分の休憩時間、または勤務リズムを考慮して充分な休憩をとる機会を与えなければなりません。
どんなに忙しくてもきちんとこれを守って休憩を取らせることが、雇用主の責任でもあります。
辞めるときの通知期間について
辞めるときは、最低でも14日前までに通知しなくてはなりません。
雇用主が従業員を解雇する場合の通知期間は、1ヶ月です。
ただし試用期間中は、通知期間を守らずにいつでも双方が雇用関係を終了することができます。
何か問題があったときは
何か雇用条件に疑問を感じたり、給料不払いなどの問題、または労働環境が安全でないなどと感じたら、すぐにPAMに相談しましょう。
だだし相談できるのは、PAMに加入している場合に限ります。
加入していない場合に相談できる窓口もありますが、彼らはあくまでアドバイスをすることしかできません。
自分を守るためにも、お仕事が決まったら必ず労働組合に加入するようにしましょう(ただし条件等については各自よく調べる必要あり)。
最後に
以上、フィンランドで働くために必ず知っておきたい大切なことを詰め込んでみましたが、いかがでしたでしょうか?
日本の飲食店でのアルバイトとして働くことと、フィンランドの飲食店で働くことのイメージが少し違うことが伝わったかもしれません。
わたしたちはフィンランド語を母国語としないことや、フィンランドでの職歴がないことがハンデになってしまう場合もあり、想像よりも仕事探しに苦戦することもあるかもしれません。
また、悲しいことに、そういったわたしたちの状況を利用しようとするブラックな職場というものはフィンランドにも存在するので、フィンランドの労働協約などについてしっかりと理解を深め、不当な搾取から自分を守ることがとても大切です。
フィンランドでのワーホリを検討している方は、仕事探しに少し時間がかかっても大丈夫なぐらいの貯蓄と、「何事も経験!」というマインドを持って、お財布と心に余裕がある状態で臨むのが安心かな、と個人的には感じています。
このページに辿り着いたみなさんが、フィンランドですばらしいお仕事体験ができることを心から願っています。
一年という限られた時間の中で、たくさんの日本ではできない貴重な経験ができるよう、心から応援しています!
※申し訳ありませんが、個別相談は受け付けていません。ご理解いただけますとうれしいです。
こんにちは。
最近フィンランドでのパートタイムが決まったので、大変参考になりました。
もし、可能であれば「トレーニングシフト」についてお伺いしたいのですが、給料は発生しましたか??
さくさん
こんにちは。
お仕事獲得、おめでとうございます!
わたしの場合、この2-3時間の「トレーニングシフト」の給料は発生しなかったと記憶しています。
代わりにと、サワードウ一斤をいただいたような気がします。ご参考までに。
※追記※
トレーニングシフトではなく、「トライアルシフト」の誤りでした!
大切なところを間違えていました、大変申し訳ありません(ブログ記事の内容は修正しました)。
トレーニングシフトとは、雇用されてから仕事についてトレーニングしてもらうシフトのことで、そちらは間違いなく給料が発生します。