最近やっと読んだ日本の芥川賞受賞作「コンビニ人間」が、フィンランドでも人気らしい

なぜ今更、と思う方も多いかもしれませんが、つい先日「コンビニ人間」を読みました。

コンビニ人間といえば、村田沙耶香先生によって書かれ2016年に出版された小説で、同年の芥川賞を受賞し、話題になりましたよね。

当時放送されたアメトークの読書芸人でも、数人の芸人さんがおすすめ本として紹介していたのを覚えています。

いつか読もうと思って、電子書籍ですが「積読」していたものを、なぜかふと思い立って読みました。

きつね

「積読」という言葉は「tsundoku」という英語でも2018年頃から広まっているそうですね。

まだ読んでいない方のためにもネタバレはしたくないので詳細は書きませんが、夢中になって数時間で読破できてしまう読みやすさの中に、高度すぎる描写の技法がふんだんに散りばめられていて、とても感銘を受ける作品でした。

そして読書が趣味のフィンランド人のお友達と話していたら、「この本は最近、フィンランドでも人気だよ」と教えてくれたのです。

なぜ今更と思い調べてみると、この本は約30の言語に翻訳されていて、2020年の春にフィンランド語にも翻訳されていました。

よって、ここフィンランドでは新しい本という立ち位置なわけです。

左はAmazon.jp、右はSuomalainen Kirjakauppaホームページより引用

日本版と比較すると、ビビッドイエローにピンクを組み合わせた装丁がなんともポップな印象です。

フィンランド語の題名は「Lähikaupan nainen(ラヒカウパン・ナイネン)」、直訳すると「コンビニ女」とでもいったところでしょうか。

しかしこの本、読んだ方はおわかりのとおり、日本の文化背景を知ってこそのおもしろさが詰まった一冊です。

コンビニの日夜清潔で青白い蛍光灯に照らされた店内、古いボロアパートのかび臭いにおい、オフィスビル群にあるコンビニの朝の雰囲気、身体的距離は近いのにあえて敬語で話す心理的距離感など。

そんな、日本行ったことがあっても旅行ぐらいではわからないことが、他文化の人たちに伝わるのだろうか、と疑問に思いました。

そもそもこの国には、「24時間営業のコンビニ」という日本人があまねく持っている概念すらありません(24時間営業のコンビニやスーパーは都心に少しあるけれど、日本ほど一般的ではない)。

そこで、フィンランド語で書かれた、この本を読んだ人のブログなどを探してみました。

もちろん感想は人それぞれですが、

  • とてもおもしろいストーリーだった
  • 型にはまらないことがどれほど難しいかを感じ、悲しくなった
  • 日本の生活が私たちがよく知っているステレオタイプとよく一致している

というコメントが多いように見受けられました。

「嫌な気持ちになった」「イライラした」というネガティブなコメントもありましたが、わたしが見た限り「読む価値はあった」「総合的には好きだった」と好意的な結論のものばかりでした。

なので日本の文化背景を知った上で物語を楽しむわたしたちと、物語を通して文化背景を学ぼうとするというフィンランドの読者では、楽しみ方は違えど、この作品の「おもしろさ」は共有できているのだなとうれしい気持ちになりました。

インスタグラムでも、すてきな本の写真と一緒に感想を投稿している人がたくさんいます。

数々のブログや投稿などを読んでいると、この本を読書サークルの題材にしたり、「読書チャレンジ2020」の一冊に選んでいる人が多いことに驚きました。

HELMETホームページより引用

読書チャレンジとはなんだろうと思いさらに調べてみると、ヘルシンキの図書館は毎年1月に「読書チャレンジ(lukuhaaste(ルクハーステ))」と題して、50の読書アイディアを提供していることを知りました。

たとえば

  • あなたの年齢よりも古い本
  • サウナが登場する本
  • だれかがあなたのために選んだ本
  • 題名の最初と最後のアルファベットが同じ本
  • あなたが知らないことに関する本

などです。

たしかに自分の好みの本を選ぶと、いつもジャンルやテイストが偏ってしまいがちなので、とってもすてきな試みだなと思いました。

その2020年版の29番に「日本に関する本、またはマンガ」というものがありました。

コンビニ人間のフィンランド語版が2020年に出版されたタイミングと重なり、選ぶ人が多かったのかもしれません。

図書館の貸し出しランキングでも上位で、予約して順番待ちをしている人が多いと聞きました。

2021年の読書チャレンジももう出ているので、挑戦してみるのも楽しそうですね。

4件のコメント

きつねさん、こんにちは!
私は不勉強で「コンビニ人間」を読んだことありません。フィンランドで翻訳されるくらいですから、面白いんでしょうね。今、読んでいる本が読み終えたら、トライしてみます。なにより「積読」と言う言葉も知らなかったです(^_^;) 
フィンランドの読書チャレンジというやり方は面白いですね。自分は純文学が好きだ、伝記が好きだ、中国古典が好きだ、この作者の作品が。。。など、どうしても選ぶものが偏る傾向にありますが、他人からヒントをもらって、色々なカテゴリーに挑戦してみるのも楽しいかも。ハズレもあるかもしれませんが、それも楽しい。私も本が好きで家の中が本で埋まって、たまに整理して古本に売るとき、すごく悩みます。結局予定通りに本棚を空けることができません(笑)。電子書籍に移行していくかお悩み中。

kiitos tottyさん
こんにちは!
いつもコメントいただきうれしいです、ありがとうございます(^^)
「積読」という言葉、考えた方天才ですよね!上手だなぁと思います。
「コンビニ人間」は数時間でさくっと読めてしまうので、気が向いたら是非是非です。
そうなんです、本はついついジャンルや作者が偏りがちなので、なかなかおもしろいチャレンジだなと思いました。
人から勧められると気が進まないこともあるへそ曲がりなので(笑)、テーマの中から自分で選ぶというのもいいですよね。
苦手ならそれはそれで、新しい経験になりますもんね。
本は増える一方ですね、お友達のお家にお邪魔したとき、本棚を拝見するとその方の頭の中を覗いているようで楽しいのでついつい見てしまいます。
手放すのはなかなか惜しいですよね。
電子書籍はスペースを取らないし持ち運びも便利ですが、やはり手に入るのなら紙の本がいいなとわたしは思っています。

きつねさん、こんにちは。
おすすめの「コンビニ人間」読み終わりました。
・・・何というか、不思議な読後感。自分の周りでは起こらない現象や自分の知り合いにはいないタイプの人間です。でも、現代ではこういうタイプの方はたくさんいるんだろうな、と思います。世間では社会不適合者と雑に分類されてしまうんでしょうね。日本は特に他人と違う行動はマイノリティとして、排除しようとする傾向が強いですし。不思議な本でした。

kiitos tottyさん
こんにちは!
早速お読みいただき、そして感想をシェアしていただき、本当にありがとうございます(^^)
とってもうれしいです。
不思議な感覚になりながらも、なんだか引き込まれて一気読みしてしまう作品でした。
わたしがこの作品でいいなと思ったのは、あくまで主人公目線で、彼女は別に適応しようともがいていないところです。
この本がフィンランド語に訳され、フィンランド人に読まれているのも、また不思議な感覚ですよね。

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